荻窪駅南口の商店街から一歩入ると、閑静な住宅地が広がる。この地域は、大正時代に別荘地として知られ、関東大震災後、東京市民の郊外転入により発展しはじめた。昭和初期には多くの文化人が移り住み、総理大臣を三度務めた近衛文麿もこの地に別邸(荻外荘)を構えた一人である。その時代の面影は、わずかに姿を変え、現在も息づいている。
大田黒公園もその一つである。ここは、音楽評論家・大田黒元雄氏の屋敷跡を日本庭園として整備し開園した。正門を入ると樹齢100年を超えるイチョウ並木が来園者を迎える。自然の起伏を生かした回遊式庭園には、ケヤキ・アカマツなどの巨木が青青と茂る。園内の記念館は、大田黒氏の仕事場の洋館を改装したもので、生前愛用のピアノでの演奏会などが行われている。
5分ほど離れた場所には角川庭園・幻戯山房がたたずんでいる。俳人で書店創設者・角川源義氏の旧邸宅を改修し開園した。園内では、芭蕉・サルスベリなど俳句の季語となる四季折々の花や草木を楽しむことができる。
夏の日差しと木漏れ日の中、歴史と文化の薫りを肌に感じながら、文化人ゆかりの地を歩いてみてはいかがだろうか。
秋の紅葉は、息をのむほど美しいことを追記しておく。